高性能指向のSAS向けHDDと大容量指向のSATA向けHDDを比較してみる

比較対象

Hitachi Global Storage Technologies (HGST)の製品でOEM用の詳細仕様が公開されていたので、下記のディスクを対象に選ぶ。


スペック一覧

記載されているスペックを並べてみる。

区分 項目 Ultrastar 15K600 Ultrastar 7K3000 備考
基本 リリース年月 2009年10月 2011年01月
フォーム・ファクタ 3.5インチ 3.5インチ
インタフェース 6Gbps SAS 6Gbps SATA
容量 600GB 3TB
重量(g) 750 690
物理 磁気ヘッド数 8 10
プラッタ数(磁気ディスク数) 4 5
ゾーン数 21 記載なし
線記録密度(Kbit/inch) 1288(最大) 1445(最大) 英: Recording density
平均トラック密度(track/inch) 172,771 255,000 英: Track density
面密度(Gbit/inch2) 223 369 英: Areal density
セクタ・サイズ 512 512 英: Bytes per Sector
パフォーマンス コマンド・オーバーヘッド(ms) 記載なし 省略 無視できるほど短い(1[ms]未満)
最大シーク時間(ms) 読込: 6.3 書込: 6.8 記載なし 英: Full stroke seek time
平均シーク時間(ms) 読込: 3.3 書込: 3.8 読込: 8.2 書込: 9.2 英: Average seek time (including settling)
隣接トラックへのシーク時間(ms) 記載なし 読込: 0.5 - 0.7 書込: 0.6 - 0.8
セトリング時間 シーク時間に含む シーク時間に含む 高速シーク後にトラック中心に整定する
磁気ヘッド切り替え時間 記載なし 記載なし 通常2[ms]程度
回転数(rpm) 15,030 7,200
平均回転待ち時間(ms) 2 4.16 回転数から決まる
インタフェース速度(MB/s) 600 (最大) 600 (最大)
データバッファ(MB) 64 64
バッファ・セグメント数 254 読込: 128 書込: 70
瞬間転送速度(MB/s) 218(外周) - 134(内周) 記載なし 英: Instantaneous transfer rate
連続転送速度(MB/s) 197(外周) - 116(内周) 162 英: Sustained transfer rate
区分 項目 Ultrastar 15K600 Ultrastar 7K3000 備考
信頼性 エラー・レート 1 in 1016 1 in 1015 読み込みビットあたりの回復不能エラー
平均故障間隔(MTBF) 160万時間 200万時間
可用性 24時間×365日 24時間×365日
保証期間 5年 5年
消費電力 動作時(W) 16.6 11.3
アイドル時(W) 10.7 5.6
環境条件 外気温(動作時) 5 - 55度 5 - 60度
外気温(停止時) -40 - 70度 -40 - 70度

15K600のゾーン構成

  • 『KB/トラック』(1KB=1024B)および『1GB/ゾーン』(GB=10003B)は計算結果を追記。
ゾーン番号 セクタ数/トラック シリンダ数/ゾーン 開始シリンダ番号 終了シリンダ番号 KB/トラック GB/ゾーン
0(外周) 1726 3804 1 3804 863 26
1 1680 10013 3805 13817 840 68
2 1633 3104 13818 16921 816 20
3 1610 5707 16922 22628 805 37
4 1586 4305 22629 26933 793 27
5 1568 3204 26934 30137 784 20
6 1540 6508 30138 36645 770 41
7 1512 4205 36646 40850 756 26
8 1493 4605 40852 45456 746 28
9 1470 4406 45457 49862 735 26
10 1446 3804 49863 53666 723 22
11 1400 11714 53668 65381 700 67
12 1353 3504 65382 68885 676 19
13 1330 4004 68887 72890 665 21
14 1306 3103 72892 75994 653 16
15 1288 2103 75995 78097 644 11
16 1260 4305 78098 82402 630 22
17 1213 5107 82403 87509 606 25
18 1166 4205 87510 91714 583 20
19 1120 7109 91715 98823 560 32
20(内周) 1050 6007 98824 104830 525 25
合計 - - - - - 599

スペックの記載項目でわからなかったもの

ゾーン
ディスクの内周と外周でトラック長が大きくことなるため、外周にいくほどより多くのセクタを持つことができる。しかし各トラックごとでセクタ数を上限までとると、セクタ数がトラックレベルで異なることとなりアドレス管理上不具合がある。よって、ある程度のトラックをまとめてゾーンとし、ゾーン内のトラックについてはセクタ数/トラックを同じにする。Zone Bit Recording(ZBR)と呼ばれる方式。

面密度(Areal density)
線記録密度(bit/inch)とトラック密度(track/inch)の積。
磁気ヘッド切り替え時間
磁気ヘッドは記録面ごとに存在するが、ある瞬間に読み・書きできるのは1ヘッドのみ。この使用する磁気ヘッドを電気的に切り替える時間のことを指す。2[ms]かかる場合、1記録面の1トラックの読み・書きが終わり、次の面のトラックに移る場合、最低2[ms]かかる。この磁気ヘッド切り替えの時間があるとすると、回転待ちの時間がまたかかる?
瞬間転送速度
特定トラック上のデータをシーケンシャルに読み取り続けた場合の転送速度。シークや回転待ちがないため最大の速度がでる。実際には1トラックのデータは1回転で読み終えるのでシークか磁気ヘッド切り替えが必ず発生する。この値は連続転送速度に対する理想値。
連続転送速度
データの並びなどに沿って、複数のトラック・シリンダにわたりデータをシーケンシャルに読み取り続けた場合の転送速度。シークや回転待ちはあるが、シークはランダムではなく隣接トラックへのシークになる。実際のシーケンシャル・リード、シーケンシャル・ライトで出せる理想値。

比較で気がついたこと

  • 1トラックあたりの容量は 525KB - 863KB (Ultrastar 15K600の場合)。
    • ランダムアクセスの粒度(8KBや16KB)のアクセスであれば、1トラック内へのデータアクセスのみで済む。
    • 1トラックに収まらないサイズ、境界をまたぐアクセスの場合には磁気ヘッドの切り替えや隣接トラックへのシークが必要となる。
    • 4[ms]/512KBから1KBのデータ転送は約8[ns]で完了する。16KBの場合でも0.13[ms]。たしかにシーク時間や回転待ち時間が支配的である。
  • 3.5inchのHDD同士だが、写真で見るとプラッタのサイズが全く異なり、Ultrastar 15K600 のプラッタが随分小さい。小さいプラッタには下記の特徴がある。
    • プラッタが小さければ、アームを動かす範囲が狭くすむため、最大シーク時間(Full stroke seek time)・平均シーク時間を短くできる。実際に Ultrastar 15K600 の最大シーク時間は Ultrastar 7K3000 の平均シーク時間よりも短い。
    • プラッタが小さいということはプラッタが軽いことになる。軽いため高速に回転させることができる。
    • プラッタが小さいため記録面の面積が減少する。つまり大容量が難しい。高密度かつ高速回転の読み・書きは技術的に難しいため、高密度化は低速回転のHDDより遅れる。
  • Ultrastar 15K600 のトラックあたりのセクタ数が内周(1050)と外周(1726)と異なるが、円周長の差がダイレクトに反映されているわけではない。写真で見る限り内周は半径の1/3程度の位置であり、円周長がそのまま1/3。しかしセクタ数は60%程度にしかなっていない。
    • 小さいプラッタでさらに内周を使っていない?
    • 外周は線速度が速いためセクタの密度を上げられない?
  • スイングアームの根元(ロータリー・アクチュエータ)のサイズが Ultrastar 15K600 のほうが大きい。
    • Ultrastar 7K3000 では技術が進んで小さく実装できるようになったか、もしくは 15K600 のロータリー・アクチュエータのメカニカルパーツや、ロータリー・アクチュエータ以外の部品点数が多い?SASだから?
  • 下記の項目では Ultrastar 7K3000 が優位になっている。リリース年月に差があるための進歩?